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不育症の定義

不育症とは
妊娠は成立しますが、自然流産(妊娠21週まで)、早産(妊娠22週〜36週)、周産期死亡(妊娠22週〜生後7日)を繰り返し、結果的には生児を得ることができない状態をいいます。
 反復流産:連続2回の自然流産
 習慣流産:連続3回以上の自然流産
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不育症の背景

自然流産の頻度:全妊娠の15〜20%
年齢による流産の頻度(およその目安)
〜30歳 8〜15%
35歳 20%
40歳 40%
42歳 50%<
45歳 80%

自然流産のうち約60〜70%以上の胎児に染色体異常があると報告されています。
受精卵の約40%に染色体異常があり、出生児には0.6%に減少することがわかっています。
→流産という自然淘汰が起こらなければ、出生児の約40%が染色体異常をもつことになります。
反復流産率:2〜4%、習慣流産率:0.3〜0.8%、習慣流産後に妊娠された場合の流産率:50%
→連続2回の流産の場合は病的ではなく不育症とはいえない場合も多いのですが、連続3回以上の流産を経験した場合は不育症の原因検索をお勧めします。ただ逆に考えると、3回流産を経験した方でも、次の妊娠で元気な出生児を得る確率が50%もあるとも言えます。
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不育症の検査の進め方

以下に該当する方は積極的に検査をおすすめします。
習慣流産(3回以上の流産)の場合。
妊娠10週以降の子宮内胎児死亡の経験がある。
妊娠34週以前の子癇前症、子癇、胎盤機能不全(子宮内胎児発育不全)による早産の経験がある。
血栓症の既往がある。

検査の内容に関して 、
一律にすべての項目が必要な訳ではありませんが、これまでに調べたことのある項目も含めて系統立てて検査を進めることが大切です。
患者様の年齢や状況によっては、1回しか流産を経験していなくても、次回の妊娠に向け早期に検査を受けた方がよい場合もあります。
また、検査費用も保険が適用されるものと自費検査のものがあります。
患者様ごとにご案内し、ご相談のうえ決定します。
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不育症の原因について

約70%の原因が判明するといわれています。(約30%は原因不明です)
(日本産婦人科学会 生殖・内分泌委員会 2005)

1.
内分泌代謝異常 6.9%
黄体機能不全
妊娠継続を維持する黄体ホルモンの不足が考えられます。
高プロラクチン血症
不妊の原因としても知られ、妊娠維持に関与しています。
甲状腺機能異常
甲状腺機能異常の方に流産が多いことが知られています。
糖尿病
高血糖は流産を招き、胎児奇形を引き起こす可能性もあります。

2.
子宮の形の異常 9.0%
子宮形態異常(双角子宮、中隔子宮、重複子宮など)、子宮腔内癒着、子宮筋腫などが流早産の原因となることがあります。
3.
自己免疫疾患・抗リン脂質抗体症候群 19.0%
自己免疫疾患とは、自分の体の細胞を自分の抗体で攻撃してしまう病態です。
本来抗体は細菌などの異物に対して自分を守るために攻撃を行うものですが、自己免疫疾患の場合は自分の細胞に対して攻撃してしまいます。胎児の半分は母親由来、半分は父親由来の遺伝子でできていると考えられますので、免疫系から攻撃をうけてしまい、流産となると考えられます。その中でも抗リン脂質抗体を保有する抗リン脂質抗体症候群では、抗リン脂質抗体のために血栓ができやすく、胎盤の血のめぐりが悪くなったり、絨毛(胎盤)が直接傷害されて流産をおこしやすくなったりすることが報告されています。抗リン脂質抗体症候群と診断された場合、次回妊娠の無治療での流・死産率は70〜80%と予後不良であることがわかっています。血栓症の既往や妊娠中期以降の胎児死亡、早産の既往のある方は抗リン脂質抗体症候群である可能性があります。
4.
血液凝固因子 28.3%
血液凝固系の異常があると、おもに妊娠中期以降の子宮内胎児死亡が引き起こされることがわかっています。国内では第XII因子低下症の頻度が高く、自己抗体の関与も指摘されており、胎盤での血栓を引き起こすことが流産の原因と考えられています。
5.
染色体異常 7.7%
夫または妻に染色体異常がある場合流産を繰り返すことがあります。
6.
原因不明 29.1%
1)
感染症
感染症は不妊や流産、早産、死産の原因となることが報告されていますが、治療しないでいると不育症の原因となる可能性があります。
膣、子宮、卵管などの炎症を起こしやすい菌(ウイルス感染、クラミジア感染など)を検索します。
2)
同種免疫異常(母体〜胎児間の免疫に関する異常)
胎児の半分は父親の遺伝子由来であるので、母体にとっては自分と異なる遺伝子をもつ「非自己」といえます。一般的な免疫反応では、体の中に進入した「非自己」を攻撃する反応が起こるはずです。しかし、正常の妊娠では「非自己」を攻撃せず、妊娠が継続します。また、「非自己」を「非自己」として認識出来ない場合にも流産が起こると考えられています。妊娠の継続には「非自己」を認識した上で、攻撃することなく、胎児に必要な環境を提供する、母体側と胎児側との「免疫応答」と呼ばれる免疫の絶妙なバランスが必要であると考えられています。この「免疫応答」がうまくいかないことを同種免疫異常と呼んでいます。
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不育症の検査項目

1.内分泌代謝異常
1次
2次
3次
保険適応
□黄体期ホルモン(E, P)
□プロラクチン
□甲状腺ホルモン(fT4, TSH)
□空腹時血糖

2.子宮の形の異常
□子宮卵管造影
□子宮鏡検査
3.自己免疫疾患・抗リン脂質抗体症候群
□抗核抗体
□抗DNA抗体(RIA)
□抗SSA抗体
□ループスアンチコアグラント(LAC)
□抗CL-B2GPI抗体
□抗カルジオリピン抗体IgG
□抗カルジオリピン抗体IgM
□抗フォスファチジルエタノールアミン抗体IgG
□抗フォスファチジルエタノールアミン抗体IgM
□抗フォスファチジルセリン抗体IgG
□抗フォスファチジルセリン抗体IgM
4.血液凝固因子
□APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)
□PT(部分トロンボプラスチン時間)
□第XII因子活性
5.染色体異常
□染色体検査
6.感染症
□膣分泌物細菌培養
□子宮頸部クラミジア抗原
7.同種免疫異常
□遮断抗体活性(リンパ球混合培養)
□NK活性
□Th1/Th2比
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不育症の検査費用について

1次スクリーニング
【保健適応】 7,810
保険適応外 1,700
2次スクリーニング
保険適応外 28,860
3次スクリーニング
 染色体検査
【保健適応】 7,200
 遮断抗体活性(リンパ球混合培養)
保険適応外 43,890
 NK活性
保険適応外 5,780
 Th1/Th2比
保険適応外 13,860
*会計窓口での実際のお支払いは、他検査や諸費用の関係で多少増減する可能性があります。ご了承下さい。
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当院における不育症治療の進め方

1.
内分泌代謝異常
黄体機能不全
黄体ホルモン内服や注射をします。
高プロラクチン血症
抗高プロラクチン血症薬(カバザール)を内服します。
甲状腺機能異常
甲状腺薬、抗甲状腺薬を内服します。
糖尿病
食事療法、内服、注射治療
2.
子宮の異常
開腹または内視鏡を用いた手術による子宮形成術などをおすすめします。
3.
感染症(ウイルス感染症、クラミジア感染など)
抗菌剤を内服します。
4.
自己抗体異常
1)
低用量アスピリン内服療法
黄体期(高温期)にバイアスピリン1日1錠(100mg)を内服開始し、妊娠が判明すれば妊娠34週頃まで続けて内服します。
2)
プレドニン(5〜40mg)内服療法
異常が判明ししだい内服開始し、妊娠が判明すれば妊娠34週頃まで続けて内服します。
副作用:易感染症、体重増加、骨粗鬆症、早産(60%)、低出生体重児、妊娠中毒症(13%)、妊娠糖尿病(15%)など。
漢方療法と奏功率に差がないとする報告があります。
3)
漢方療法(当帰芍薬散、黄苓湯、柴苓湯など)
異常が判明ししだい、または黄体期(高温期)に内服開始し、分娩前まで内服します。
5.
リン脂質抗体症候群
1)
低用量アスピリン療法
黄体期(高温期)にバイアスピリン1日1錠(100mg)を内服開始し、妊娠が判明すれば妊娠34週頃まで続けて内服します。
2)
ヘパリン療法
妊娠判明時からのヘパリン皮下注または持続静注が有効と考えられています。
副作用として血小板減少、ヘパリン起因性血小板減少症、骨密度減少があり、副作用のチェックのため採血による頻回の検査が必要です。
入院管理が可能な専門医療機関をご紹介します。
3)
漢方療法(当帰芍薬散、黄苓湯、柴苓湯など)
異常が判明ししだい、または黄体期(高温期)に内服開始し、分娩前まで内服します。
6.
血液凝固因子の異常
1)
低用量アスピリン療法
黄体期(高温期)にバイアスピリン1日1錠(100mg)を内服開始し、妊娠が判明すれば妊娠34週頃まで続けて内服します。
2)
漢方療法(当帰芍薬散、黄苓湯、柴苓湯など)
異常が判明ししだい、または黄体期(高温期)に内服開始し、分娩前まで内服します。
7.
同種免疫異常による習慣流産
下記条件を満たす患者様が対象です。
3回以上の流産の経験がある。
分娩歴がない
その他の不育症に関する検査で異常を認めない

1)
リンパ球輸注
ご主人の血液を採取し、リンパ球を取り出し、妻に2週間隔で皮内注射します。
妊娠前に4回、妊娠後2回注射します。
ご主人に感染症がある場合、妻に抗夫リンパ球抗体が陽性である場合は行えません。
副作用には投与部位の発赤、腫脹、輸血による副作用などがあります。
現在、当院では行っておりません。
2)
漢方療法(補中益気湯、十全大補湯など)
異常が判明ししだい、または黄体期(高温期)に内服開始し、分娩前まで内服します。
8.
染色体異常
不育症の夫婦に認められるのは主に「均衡型転座」と呼ばれる染色体異常です。「均衡型転座」は、染色体の別々の2カ所が入れ替わるもので、染色体の過不足がなく、身体には異常がない染色体異常です。400人に一人の割合で存在し、夫婦では200組に1組という「ありふれた現象」であると考えられています。
「着床前診断」は体外受精によって得られた受精卵の一部を採取し、染色体分析をして正常な染色体の受精卵を胚移植するという技術です。日本では認定された施設で行うことが出来ます。「着床前診断」を行うことで、ハイリスクのカップルが流産を繰り返すリスクを軽減出来ることや、染色体異常が原因の人工妊娠中絶を回避出来る利点があります。逆に、受精卵の一部を採取することが現在のところ胎児に影響がないとは言い切れないことや、自然に妊娠出来る患者様に体外受精を行わなければならないという、経済的、肉体的負担を伴うという欠点もあります。

近年、以下のように報告されています。
(ア) 染色体異常を持つ夫婦の約70%が最終的に自然妊娠で生児を得た。生児を得るまでの一人あたりのさらなる流産回数は1.3回であった。
(イ) 次回妊娠で生児を得た確率は30〜45%であり、染色体正常夫婦の55.3%と統計学的有意差を認めなかった。
(ウ) 流産となった症例の胎児絨毛染色体は、1/3は転座が原因と思われる染色体異常であったが、1/3はそれ以外の染色体異常、1/3は染色体が正常であった。
(エ) 転座を持つ不育症患者の約60%に、その他の不育症検査での異常が見いだされた。
(オ) 着床前診断を行なって最終的に妊娠した割合は約70%であり、妊娠するまでの間に一人平均3.8回の体外受精が必要であった。
(カ) 着床前診断での流産率は22.7%であった。
「EBMに基づく不育症診療の実際 杉俊隆 2007より抜粋」

つまり、染色体異常は確かに流産の原因にはなりますが、これまでの流産がすべて染色体異常のせいであるという根拠はなく、また、これからの流産率もそれほど高いものではないといえます。
また、着床前診断についても、すべての不育症患者に有益であるかは検討の余地があるといえます。
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次の一歩を踏み出すために

何度も流産を繰り返すことは、他人にはわからない深い悲しみであると思われます。ご夫婦にとっては、どんなに小さくても大切な命だったことでしょう。なかなか次の妊娠に踏み出せないお気持ち、お察しします。

妊娠、出産は「誰でも出来て当たり前」だと思われがちですが、決してそうではありません。妊娠のメカニズムはとても複雑で神秘に満ちています。卵巣で卵が作られ、精巣で精子が作られ、卵管に受け止められた卵に長い距離を泳ぎきった精子が出会って受精卵となり、複雑な染色体の合成を開始します。驚異的な早さで受精卵は分裂をしながら、長い卵管の旅を経て子宮内膜に到達します。運良く子宮内膜に着床できた受精卵だけが胎盤から栄養をもらい、ここから子宮内で育つこと10ヶ月、幾多の苦難を乗り越えてようやく一人の人として生まれてくるのです。このたくさんの小さな奇跡の積み重ねが最後まで滞りなく続くのは、そう簡単なことではありません。

さらに、未だこの妊娠のメカニズムはすべて解明出来ていません。いやむしろ、解明できていることの方が少ないと言ってもいいでしょう。これは、妊娠だけでなく、人の体のしくみや病気について全般的に言えることだと思います。流産も、その一回一回の原因が確実にわかることは、残念ながらまずありません。

もしかしたら、原因を追及することだけにエネルギーを費やし過ぎてはいませんか。
私たちは、必要十分な検査と現時点で確かだと思われる情報を可能な限り提供することで、次の一歩を踏み出すお手伝いをしたいと思っています。

すこしだけ勇気と覚悟をもっていただきたいのです。
なぜなら、最善と思われる治療方法を選んだとしても、流産を100%回避出来る方法はないからです。そして、妊娠しない限り先へは一歩も進めないからです。どうかあせらず、でも現状を直視して、次のチャレンジへと大きな一歩を踏み出していただきたいと心から願っています。
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不育症不育症外来

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