着床前遺伝学的検査
着床前遺伝学的検査/Preimplantation genetic testing (PGT)とは、体外受精によって得られた胚(受精卵)の染色体数や構造を調べる検査です。
着床前遺伝学的検査は胚移植を行う前(着床前)に行うため、着床前遺伝学的検査と呼ばれます。胚の染色体の数や構造に異常がある場合、その胚は着床しなかったり、着床しても妊娠初期に流産となる可能性が高いことが知られています。PGTにより染色体数や構造に異常のない胚を移植することで、妊娠率や流産率の改善を期待することができます。胚の染色体の数的異常の有無を検出する技術を着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)、胚の染色体の構造異常の有無を検出する技術を着床前胚染色体構造異常検査(PGT-SR)と呼びます。
当院は日本産科婦人科学会からPGT-A, PGT-SR承認実施施設として認定されており検査することが可能です。
また検査をご希望されるカップルは、日本産科婦人科学会のホームページにある PGT-A・SR の説明動画を視聴して下さい。
https://www.jsog.or.jp/medical/847/
着床前遺伝学的検査の対象者
PGTは以下に示す基準に該当する患者さまを対象としています。
ご希望されても全ての方に行える検査ではありませんので、医師にご相談ください。
PGT-A対象者
体外受精と胚移植を2回以上行っても着床しなかった不妊症のカップル、流産や死産の経験が2回以上ある不育症のカップル。
PGT-SR対象者
男女のどちらかに染色体構造異常(均衡型染色体転座など)があるカップル。妊娠既往もしくは流死産既往の有無は問いません。
着床前遺伝学的検査の方法
体外受精を行い、胚が胚盤胞まで成長した段階で胚盤胞の外側の部分(栄養外胚葉)から細胞を採取(生検)します。生検した細胞を日本産科婦人科学会が認定している外部の検査機関へ提出し検査を依頼します。胚は一旦凍結し保存しておきます。
検査機関では次世代シーケンサー(Next Generation Sequencer:NGS)という手法により、迅速なゲノム解析が可能となっており、胚の染色体の数や構造を検査します。
検査結果
外来にて当院の医師が結果説明を行います。生検から検査結果が判明するまで2〜3週間程度かかります。またPGT-SRを行う場合は検査前後に臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリングを受けていただきます。
解析結果は下記の4つのカテゴリー(A〜D)に分類し判定を行います。
A | 常染色体が正倍数性(均衡型転座を含む)である胚 |
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B | 常染色体の数的あるいは構造的異常を有する細胞と常染色体が正倍数性細胞とのモザイクである胚 |
C | 常染色体の異数性もしくは構造異常(不均衡型構造異常胚など)を有する胚 |
D | 解析結果の判定が不能な胚 |
着床前遺伝学的検査のメリット
- 移植前に胚の染色体数(または構造)を評価することで、異数性胚(または構造異常胚)を移植しないという選択ができます。
- 流産の原因の多くは胚の染色体異常であるため、結果として流産のリスクが減ることが期待されます。流産のリスクが減ることにより、流産に伴う精神的、身体的苦痛を回避できます。
- 妊娠・出産の可能性の低い胚移植を減らせることができます。
着床前遺伝学的検査のデメリット
- 体外受精を行なっても胚が胚盤胞まで発育しなければ検査はできません
- 検査のために胚の細胞を採取しますので、胚にダメージを与える可能性があります。そのダメージより妊娠率が低下するのか、どのようなデメリットがあるか否かはまだわかっていない部分も多いです(現時点で胚への安全性は問題ないと考えられています。)胚へのダメージにより、その胚を移植できなくなる可能性があります。
- 検査する栄養外胚葉は、将来「胎盤」になる部分です。胎児(赤ちゃん)の細胞自体を検査しているわけではないので、検査精度は100%ではありません。
- 検査した胚を移植しても妊娠、出産が100%約束されるわけではありません。染色体以外の異常や母体因子や着床因子など、その他の理由で妊娠に至らなかったり、流産する場合があります。
検査費用
採卵、胚培養、凍結、移植、PGT-A・SRに関わる費用は全て自費診療となります。
保険診療は適用外です。高額療養費制度も利用できません。
自費診療の不妊治療などに対し助成金制度を設けている市町村もありますので、お住いの自治体にお問い合わせください