医療法人 越田クリニック

胚培養士掲示板

卵子や精子に関する質問、培養室についてのご質問に当院胚培養士がお答え致します。

花果(女性:大阪府)様から

2008.03.13

  • 卵子・精子DNA欠損検査

    他院にて治療中の33歳です。いつも大変参考にさせてもらっております。
    是非ご意見をお聞かせ願えればと思います。
    重度の乏精子症の為、11月に初めてICSIをしました。
    採卵18個→ICSI数15個→授精13個で、3日目に新鮮胚を2個(4分割しかなくそれを)戻し、後日胚盤胞2個を凍結。
    陰性の為、翌月に残る凍結胚を2個移植(融解した所、変性し2Cと1Cに)
    どちらの時も子宮内膜が13mm以上だったので、分割が通常より遅かった事もあり、受精卵のDNA損傷?が原因で着床しなかったのでは、との見解でした。
    今回は胚盤胞まで培養し、5日目にBT予定という事になりました。
    結局、採卵27個→ICSI数20個→授精15個でしたが
    6日目でも6分割までしか至らず、移植はキャンセルとなりました。
    8分割までは、卵子の質が関与すると聞いた事があるのですが
    卵子の質を調べるという方法はあるのでしょうか?
    先生からは、受精卵の数からすると移植がキャンセルになるのは稀な事で
    精子の方に原因があるのかもとの事でした(詳細はデータを揃えてまた後日にお話がある予定)
    次回もキャンセルになるのは耐えられないと考え
    出来れば原因をはっきりさせてから再度トライしたいので
    精子の機能特殊検査というものを受けてみようかと検討中です。
    その有効性についてはどのように思われますか?
    どうぞ宜しくお願いします。

  • 胚培養士より

    以下お答えします。
    Q1.重度の乏精子症の為、11月に初めてICSIをしました。採卵18個→ICSI数15個→授精13個で、3日目に新鮮胚を2個(4分割しかなくそれを)戻し、後日胚盤胞2個を凍結。陰性の為、翌月に残る凍結胚を2個移植(融解した所、変性し2Cと1Cに)どちらの時も子宮内膜が13mm以上だったので、分割が通常より遅かった事もあり、受精卵のDNA損傷?が原因で着床しなかったのでは、との見解でした。
    A1.DNAの損傷とか少々難しい話になっているように思いますが、お聞きする限りでは、移植した胚は分割するのがかなり遅く(丸1日通常より遅れています)、形態的にも良好ではない胚を移植していると思います。
    このような胚はもちろん、そちらのDr.の説明のとおり、DNAの状態などが悪いことも予想されるのですが、質の良くない胚がDNAの状態が悪かったり、染色体異常を伴っている可能性が高いのは当たり前の話ですし、多くの患者様の胚を実際に調べると、DNAの損傷などを伴う胚をたくさん拝見できると思います。
    何もDNAの損傷という現象が、花果様だけに特別に起こっていることではないですし、もともと、すべての胚のDNA、染色体数など正常であるはずはないので、あまり“DNA”とか“染色体”という言葉を深刻に考えすぎなくても良いと思います。誰にでもそのような胚が出来る可能性はありますし、そのような胚が出来たからと言って、すぐさま花果様ご自身の染色体異常を疑う必要もないでしょう。
    また、質の良くない胚を、非常に良い子宮内膜に移植しても妊娠の可能性は低いです。ですから、“DNAの損傷で着床しない”という難しい理解よりも、“2回の採卵において質の良い胚が得られていないため着床しない”という理解で良いようにも思います。
    Q2.今回は胚盤胞まで培養し、5日目にBT予定という事になりました。結局、採卵27個→ICSI数20個→授精15個でしたが6日目でも6分割までしか至らず、移植はキャンセルとなりました。8分割までは、卵子の質が関与すると聞いた事があるのですが卵子の質を調べるという方法はあるのでしょうか?
    A2.卵子側の染色体数の異常などについて検査することは、技術的には可能かも知れません。ただ、染色体数の検査結果が卵の質すべてを反映しているとも言いがたいですし、そのような染色体検査は、卵子を化学的な薬品等を用いて染色する必要があり、検査に用いた卵子については、実際に治療に用いることが出来ませんので、通常、治療する際にそのような検査は実施しないと思われます。
    結局、卵子に対してまったくダメージを与えることなく、事前に卵子の質を推し量る有効な検査というのは、いまのところ存在しないと思います(受精しなかった卵子を後から、染色体検査するようなことはあるのかも知れませんが、一般に行われている検査ではないと思います)。
    ですから、“卵子の質が悪い”と医療者側が判断するのは、あくまで、体外で胚培養を行った結果から、“卵子の質に問題があるのでは?”と推定している、いわば結果論だとお考えください。
    Q3.先生からは、受精卵の数からすると移植がキャンセルになるのは稀な事で、精子の方に原因があるのかもとの事でした(詳細はデータを揃えてまた後日にお話がある予定)次回もキャンセルになるのは耐えられないと考え、出来れば原因をはっきりさせてから再度トライしたいので、精子の機能特殊検査というものを受けてみようかと検討中です。その有効性についてはどのように思われますか?どうぞ宜しくお願いします。
    A3.確かに、受精卵数の割には、胚盤胞到達率が低いと思います。このようなことは比較的少ないケースだとは思いますが、実際には当院でも遭遇しますし、このような場合においても、精子、卵子のどちらに原因があるか“確定”するのは、困難かも知れません。
    ただ、おっしゃるように、ICSIの受精率にさほど問題が無く、8細胞期まで順調に分割が進まない場合には、卵子の質の影響が大きいと考えられることが多いかも知れません。
    お聞きする限りでは、卵巣刺激を行うと採卵数がかなり多くなる、いわゆるPCOタイプのようですので、このような場合、卵巣刺激法、注射の量・種類、採卵のタイミングなどを試行錯誤することで、良い卵子が得られることも多いのではないでしょうか。
    検査を重ねて良い卵子が採れない原因を究明することももちろん重要だと思いますが、同時に実際に良い卵子を得る努力を重ねていくのも現実的な対応のように思います。
    それと、ご主人が重度の乏精子症であれば、胚発育が進まない原因として、精子側の因子も考えられると思いますが、たとえ、精子の機能検査やDNAなどの検査を詳細に行っても、ICSIを実施することがすでに必須である以上、実際のICSIの場面では、私ども培養士が、“形態の良い”、“運動能の良い”精子を顕微鏡下で注意深く選別するという以外の対応はありません。
    つまり、精子に関する詳細な検査を実施して、たとえ何らかの原因が分かったとしても、ICSIの現場にそれらの検査結果を反映させることは難しいということも理解しておく必要はあるのかも知れませんね。
    ですが、何らかの原因が分かったほうが精神衛生上良いという意見ももちろんあると思いますので、詳細な機能検査を受けておくこと自体は悪いことではないと思います。